夢流し

辺りはあまりに静かでも、頭の中はどんちゃん騒ぎ。京都の地に独り暮らし、苦節の学部生生活を送る京都大学生のブログ。文化、言語、娯楽、心理、生活等に関して、大学における教養科目の講義で得た知識を再解釈および適用し、その知を広く社会に還元することを目指す。

太鼓の達人 上達のヒント(その三)

これまで太鼓の達人のプレイ上の戦略みたいなものをお話ししてきましたが、私の現在の実力の限界で書くことが思いつかなくなってきました…^^;そこで今度は、太鼓の達人をプレイするにあたり直面する問題について、その解決を試みたいと思います。

腕が思うように動いてくれない、すぐに体力が切れる

ドンだーがまず初めに直面する問題、それは「譜面は見えているのに、早すぎて腕が追い付かない」というものがあると思います。これは「譜面に合わせて太鼓を叩く」という経験が、それまでの人生でそもそも足りていないのが原因なのです。利き手と逆の手で文字を書こうとすると、ふつうはうまく書けませんね。これは文字を書いたり細かい作業を行ったりという作業の経験が、利き手において積み上げられてきたので、その感覚が利き手の方だけで細分化しているのです。
ここで運動の獲得のプロセスについて詳しく見て行きましょう。人間の運動神経(ここで言う運動神経は、「運動神経が良い」という時のような身体能力ではなく、脳が電気信号を送って筋肉が収縮する神経系を指します)は、生まれた時には細分化されていません。つまり、「体のこの部分を動かそう」と思っても、別の部分が一緒に動いてしまうのです。この現象は今でも、例えば小指だけ曲げようと思っても薬指もついてきてしまうといったところで見ることができます。こんな訓練してきませんでしたからね。
そこで赤ちゃんは、ジェネラルムーブメントという、一見めちゃくちゃな運動をします。色々な部分の神経が一緒になってしまっているので、大人にはできない複雑な運動をしているように見えるのですね。この運動により、ある部分を動かすのに必要な神経だけを残して、その他は切り捨てるという取捨選択をします。この経験を積み重ねることにより、ついにはある部分を動かすのに必要な神経だけがダイレクトに開通している、効率の良い運動ができるのです。
初心者ドンだーが、余分に力が入ってしまったり、体力が持たなかったりするのは、このように不要な筋肉まで使ってしまっているからです。思い通りに太鼓を叩けないのも、神経がもつれてしまっているからですね。これを解消するには、やっぱり太鼓を打ち続けることしかないみたいです。実際にプレイしなくても、練習だけでも効果はあるはずなので、頑張ってください。

譜面がなかなか覚えられない、その通りに譜面を捌けない

難しい曲に挑戦するとき、初見だと譜面が詰まっていたりリズムが取りづらかったりして歯が立たない場合がありますね。そんな時私たちは譜面を覚えて臨みます。しかしこの譜面を「覚える」というのが、なかなかうまくいかないのです。頭の中には譜面のイメージがあって、「ドカカドカカドカ…」と口では言えるのに、いざ叩いてみると思ったように叩けない。この問題も、実は記憶という現象の奥深いところに関連してきます。
私たちがいつ記憶を定着させるかというと、それは夜眠っている間です。眠りに関する様々な方面からの研究により、人間をはじめとする動物は眠りの中でも急速な眼球の運動が見られるレム睡眠の間に、起きている間に一時的に記憶した事柄のうち、必要な情報は長期記憶装置である海馬に移動し、不要な情報は削除するという「記憶の取捨選択」を行うことにより、脳をリフレッシュするとともに、記憶を根付かせるのです。
興味深いのは、ある工夫をするとエサがもらう装置とラットを使った実験で、ラットは眠っている間に、起きていた時に覚えたその動きをするのと同じ神経を再生することにより、記憶を選択し、定着させているのです。実際に体が動くわけではありませんが、脳内で同じ動きをしているのですね。そして目覚めてからは、その動きを学習しているというわけです。
つまり、ただ譜面を覚えるのではなくて、それに合わせた腕の振り方をこそ覚えなければならないのです。これは腕だけではなく体全体の筋肉の動きとして記憶されていると思われ、例えば同じ曲を演奏する際に片手は使うな、と言われるともう片方の手の動きもこんがらがってきます。そしてこの体の動きは、一息に覚えられるのではなくて、寝た次の日、あるいはそれ以降になってようやく習得されるのです。ですから難しい譜面の捌き方は、毎日コツコツ覚えましょう。

腕の動きが左右一緒になってしまう!

これは単純に脳や運動の問題とも言えないみたいです。
物理現象に「引き込み現象」というものがあります。振動数の同じ運動が相互に影響し、やがて同期する、というものです。蛍の発光や、心臓の拍動といった有機的なものだけではなく、メトロノームの同期のような無機的なものでも起こる現象です。
参考動画:「メトロノーム同期(32個)」

両手の人差し指だけを伸ばして、一緒に右、左、…と傾けるのをだんだん早くしていくと、気がつけばこの現象が起こって内、外、…の動きになってしまっています。これと同様で、腕を交互に振るのも、あまりに速く叩こうとすると腕の動きが同期してしまうんですね。ですから細かいノーツを叩いているうちに腕の動きが一緒になってしまう、これは自然な事ですから、ある程度そうならないように訓練しないといけないみたいです。